【動画】医療など9分野で連携強化 新協定、互いの意欲を形に<山陰・インド交流新時代(下)>
2025/10/31

ラジャギリ病院で緊急外科手術を見学する林舞佳さん(右)。インドの医療を学び、日本での研究に生かしていく=インド南部ケララ州コチ市、同病院(画像の一部を加工しています)
「医療レベルの高さに驚いた」-。インド南部・ケララ州コチ市のラジャギリ病院で今秋、短期留学した島根大医学部6年の林舞佳さん(30)が目を輝かせて語った。
林さんは約2週間の滞在中、マラリア患者や家畜の尿などで汚染された水や土壌から感染するレプトスピラ症患者を問診し、手にけがをした患者の緊急外科手術を見学するなどした。
東京の約2・5倍の人口約3500万人が暮らすケララ州にある同病院には、国内外から南国特有のデング熱、エイズウイルス(HIV)の患者らも来院。磁気共鳴画像装置(MRI)をはじめ、手術支援ロボットといった最新設備をそろえ、遠隔医療など新分野にも取り組む。林さんは「もはや発展途上という印象はない」と話した。
中海・宍道湖・大山圏域の市長会とブロック経済協議会が2015年、ケララ州政府などと経済交流拡大に向けた協定を交わしたのを受け、島根大医学部付属病院が17年、ラジャギリ病院と学術や人材の交流協定を締結。同協定に基づいて短期留学し、見聞を深めた林さんは「インドの医師は、多様な症状の患者を診察し、最新の論文を読んで知識を得ている」と振り返った。
「学ぶこと多い」
15年の経済交流協定の締結から10年の節目を迎えた今年10月、同圏域の官民団体は訪印し、交流強化を目指して協定に再調印した。
新たな協定にはITをはじめ、観光や農業、漁業など9分野での連携強化を明記。その中には医療も組み込まれた。訪印団に参加し、ラジャギリ病院も訪れた島根大の大谷浩学長は「インドの医師の豊富な経験や最新医療を学ぶ向上心の高さなど学ぶことは多い。学生にとっても必ずプラスになるはずだ」と強調。今後同大の学生らの留学を継続するとともに、インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」などをテーマに学術的な交流を進める考えを示した。
新協定には、山陰とインドとの連携事業を具現化するための実施計画案を「再調印後3カ月以内に策定する」との文言を明記した。石破茂前首相とインド・モディ首相が今夏、人材交流の活発化を盛り込んだ共同ビジョンを策定するなどして日印の緊密度が増す中、さらなる交流深化への互いの意欲を目に見える形にした格好だ。
新時代のうねり
再調印後に早速、動きが出始めた。インド側の経済団体である印日商工会議所ケララ(INJACK)のヴィジュ・ジェイコブ会長が、自らがトップを務める香辛料メーカー「Synthite(シンサイト)」社で中海・宍道湖・大山圏域に工場新設を検討する方針を明らかにしたのだ。来年1月末ごろ、同会長らが来日し、工場候補地を視察するという。
工場新設を実現させるため、候補地探しを支援していくブロック経済協議会の田部長右衛門会長は、「実績を積み上げていく10年にしたい」と大望を口にした。
実質国内総生産(GDP)が年率7%程度の高い成長を続け、26年度には名目GDPが日本を上回るとされるインド。商習慣の違いなどから、その活力を取り込み、地域経済の活性化につなげるのは一筋縄ではいかないものの、そうした壁を乗り越え、山陰・インドの交流新時代のうねりが起き始めている。
(山陰中央新報記事 政経部・佐野翔一)