産業イベント「ジャパンメラ」で浄水装置について説明するノーチスラボの小杉拓利取締役(右)=インド南部・ケララ州コチ市
産業イベント「ジャパンメラ」で浄水装置について説明するノーチスラボの小杉拓利取締役(右)=インド南部・ケララ州コチ市

 中海・宍道湖・大山圏域の市長会とブロック経済協議会、山陰インド協会でつくる訪印団が10月中旬、インド南部・ケララ州を訪れ、日印の経済交流拡大に向けて2015年に同州政府などと交わした協定に再調印した。14億人超の人口大国の活力を取り込み、地域経済の発展を目指す訪印団に同行し、10年の成果とともに新時代の交流の可能性を探った。
(政経部・佐野翔一)

 香辛料の匂いが漂い、クラクションが響き渡る中を色鮮やかなサリーをまとった女性が行き交う。果物や野菜を売る商人の傍らを牛や野犬が歩き、そのそばを車やバイクが駆け抜ける。14億4千万人の人口を擁し、「世界の成長エンジン」と呼ばれるインド。混沌(こんとん)の中にもパワーと活気が満ちあふれている。

 「やっとスタートラインに立てた。地方を中心に普及させたい」。インドで環境配慮型トイレの普及ビジネスに乗り出した大成工業(米子市米原6丁目)の三原博之代表取締役が異国の地に降り立ち、大望を口にした。同社は中海・宍道湖・大山圏域市長会などが経済交流協定を結んだのを機にインド事業に着手した。

 下水道整備が遅れる同国では農村部を中心にトイレがない地域が多く、感染症が多発。汚水などに起因する腸チフスとパラチフスの発生件数は年間700万件超との報告もある。

 開発したトイレは微生物の力で汚水の分解処理を促進。ろ過後に地上から蒸発させる仕組みで、下水道も電気も必要ない。政府開発援助(ODA)として国際協力機構(JICA)の実証事業に採択され、16年以降、北東部のワーラーナシー市やムザファルナガル市の教育機関などに設置。現地ニーズを踏まえ本格進出を決めた。

パートナー不可欠

 だが、ここに至るまでの道のりは平たんではなかった。障壁の一つが関税だ。実証事業に当たりトイレの試験施設(約2800万円)を持ち込むと、税関職員から事前に調べていた税額より約100万円多く徴税された。後になって職員によって税額の解釈が異なることがあるのを知り、大成工業の松本安弘取締役は「あ然とした」という。

 インドは労務や外資規制などの法律が州ごとに異なる上、頻繁に改正される。契約や納期、価格を巡り、商談や手続きが予定通りに進まないのも日常茶飯事だ。経済交流協定後、山陰から建設や産業廃棄物業者など数社が参入を試みながら、日本と大きく異なる商環境で事業を断念した。

 大成工業が高い壁を越えられたのは、現地事情に精通した日本人コンサルタントの力も大きかった。タクシーの手配や取引先とのアポイントメントから原料調達、販路開拓まで未知の市場参入に信頼できるパートナーは不可欠だった。松本取締役は「インドでは情報不足が命取りになる。現地事情に詳しい人とつながるのが必須だ」と強調した。

 意思疎通を重ね、約10年かけて関係を築いたコンサルの協力を受け、25年度中に南部チェンナイ市の学校に汚水施設を設置。受注拡大に向け首都ニューデリーにはモデル施設を構え、関税対策として資材の調達から組み立て、設置まで現地での一貫体制も整える計画だ。

「水への関心高い」

 インフラ整備の促進などに向け、インド・モディ政権は国内外の企業の製造拠点として発展を目指す「メーク・イン・インディア」政策を掲げ、環境規制などグローバル基準の体制整備を急ピッチで進める。

 こうした流れを背景に、山陰から環境分野で新たな動きが出始めた。雨水を飲料水や生活用水に変える浄水装置を手がけるノーチスラボ(鳥取市河原町西円通寺)は10月の訪印団に加わり、ケララ州であった産業イベント「ジャパンメラ(日本祭り)」に出展。浄化水の品質の高さや環境負荷の低さをPRし、地方の農村部や水産業界に普及させる構想を描く。

 小杉拓利取締役は「インドは衛生環境が悪く、きれいな水への関心が高いのを再認識した。現地の行政や大学、コンサル会社と関係を深め、事業拡大したい」と力説した。

 山陰の官民が経済交流を始めて10年。コロナ禍など想定外の事態を乗り越え、新時代への光明が差し始めた。