<インタビュー>『第2のふるさと』松江から世界へ アールティ・ダースさん、島根大学職員に
2026/09/14
インド南部ケララ州出身で、松江市の国際交流員として山陰―インド間の交流を最前線で支えてきたアールティ・ダースさん(30)が8月末で退任。9月1日付で島根大学企画部国際課職員に採用され、新たな人生を歩み始めた。松江での暮らしは9年目。アールティさんに、松江に住み続ける理由や今後の抱負などを聞いた。(山陰インド協会理事事務局長 岡並弘)
―国際交流員として2018年8月から8年間務めました。中海・宍道湖・大山圏域市長会とケララ州政府との覚書締結や、ガンジー像の寄贈などでは、日印両国の外務省や大使館、領事館なども巻き込みながら奔走していたのが印象的です。覚書の調印式では、司会進行という大役も務めました。
「インドでは、課題を解決しないままトップダウンで方針が決まることもあり、直前の変更が多く、柔軟な対応が求められました。仕事の進め方が日本とインドでは違うため、互いの価値観を理解し、誤解が生じないように説明することが私の役割でした。どうにか成功して、ほっとしました」
―国際交流員の活動では、市内の学校や公民館でインドの文化や歴史、生活習慣を紹介する出前講座や自主講座を開きました。
「日本人は一般的に、あまり世界に目が向いていないように感じます。『世界の一員である』という認識が薄い。さらに、大人たちが子どもに世界を見せようとしないようにも感じます。
例えばインドでは、中学時代に政治経済を学ぶこともあり、自分の権利を主張する意識があります。日本は選挙の投票率が低いですが、インドは比較的高い。日本では『自分が投票しても影響がない』と感じる人が多いからだと思いますが、インドでは一票を『与えられた権利』と捉えて、選挙に行く人が多い。
交流員の活動を通じて、世界にはいろいろな考え方や文化があること、そして世界の面白さを知ってもらいたかったです」
―国際交流員に採用された2018年8月、山陰インド協会のインタビューでは「松江は時がゆったり流れている感じがして好きな街です」と話していました。8年間暮らし、人生の転機を迎えました。例えばインドに帰国するなど、いろいろな選択肢があったと思いますが。
「松江とケララは、ともに『水の都』と呼ばれていますし、すごく都会でもないなど、とても似ています。そうした全体的な印象は変わっていません。
これまでの人生で、一番長く暮らしたのは、小学生時代を過ごしたムンバイ(インド)で、7年間でした。松江がそれを上回り、最長記録を更新中です。『第2のふるさと』といえるのかな(笑)」
「私が松江に暮らし続ける理由は、業務や文化活動への関わりを通じて、自分自身で『私は孤立していない』と言える人間関係を築けたことが一番大きいです。
私の専門は日本語と日本文化。交流員としての業務のほか、趣味の箏(こと)や美術館鑑賞、バンド活動に加えて、時には天神祭の神輿(みこし)や鼕(どう)行列といった地域の文化活動にも積極的に参加してきました。そうした活動を通じて、地域の文化に親しむ『生活のリズム』が確立されたのだとも思います」
―島根大学では「特定職務職員」として、海外の大学への学生派遣や海外の大学からの留学生受入支援、留学生と日本人学生をつなぐ交流イベントなど、大学のグローバル化推進に携わります。
「採用されたのはラッキーでした。私がこれまで蓄積してきたスキルを、どこまで生かせるかが大切だと思っています。
交流員時代には、ケララ州の理工系大学生が島根大学に留学しながら、中海・宍道湖圏域の企業でインターンシップに取り組む際の窓口も担当していました。今後は、インドだけではなく、島根大学が協定を結んでいる27か国の大学や大学生が相手になります。これまでの経験を生かして、島根と世界をつなぐ役割を果たしたいです」
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島根大学企画部国際課・江角真琴課長の話
松江市の国際交流員としてのさまざまな経験や、そこで培ったノウハウを生かして活躍してほしいと思います。
特にインドとのインターンシップ事業では、圏域の企業との調整や学生への伴走経験も豊富と聞いています。国際課が支援する海外からの留学生が島根県内企業に就職するような場面でも、その経験は生かされるのではないでしょうか。日本人学生と海外の大学生をつなぐ架け橋としての役割にも期待しています。
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アールティ・ダースさんの横顔
インド・ケララ州エルナクラム県生まれ。小学生の頃に日本のアニメが好きになり、独学で日本語を学ぶ。国立ネルー大学日本語科在学中の2015年9月から日本の大学に1年間留学。ネルー大学に復学し、卒業後の2017年に日本語能力試験の最難関レベル「N1」に合格した。2018年8月、松江市が外国の若者を日本に招く「JETプログラム」を利用して国際交流員として採用された。
国際交流員の任期は1年が基本だが、再任用により最長5年間、さらに松江市単独の雇用で3年間、計8年間にわたって国際交流員として活動。2026年9月1日付で島根大学職員に採用された。言語は、インドのヒンディー語、ケララ州のマラヤラム語、英語、日本語、韓国語の5か国語を話す。30歳。
(山陰インド協会)